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官民共創の臨場感を体験するメディア SOCIAL TIMES (ソーシャル・タイムズ)
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編集部コラム「官民共創」とは

2024年02月29日

編集部コラム「官民共創」とは

SOCIAL TIMESは、「官民共創の臨場感を体験するメデイア」です。それでは「官民共創」とはなんでしょう?本稿は「官民共創」のこれまでと現在地について編集部が整理した記事です。

CONTENT
目次

DEFINITION官民共創の定義

官民共創とは、行政だけ又は民間企業や団体だけでは解決が難しくなってきた社会課題(以下、社会課題には地域課題を含む)に、官と民が共創して解決するためのアプローチです。

人口減少や少子高齢化、人口の都市部への移動などの時代の流れによって、これまでになかった、もしくは顕在化していなかった新しい社会課題がどんどん生まれてきています。

行政が社会課題解決のメインプレイヤーであった時代には、民間企業や団体との共創は、それほど必要とされてきませんでしたが、近年の自治体の財源不足や、ステークホルダーを大切にしようとする多元的な政策形成、課題解決の社会トレンドの中で、この数年で急速に広がりを見せ、社会課題解決のための重要なアプローチとなってきています。

 

官民共創の臨場感を伝えるメディア「SOCIAL TIMES」で紹介されている民間企業と行政との共創事例はまさにその模範的なものです。

北九州市とドクターメイト社の介護施設における機能充実のケース枚方市と牧野高校生、イーデザイン損害保険の交通安全対策の強化のケース奈良県広陵町と大分トリニータとの骨折ゼロのまちづくりのケースなど、参考にすべき事例でしょう。

 

※(左)枚方市と牧野高校生、イーデザイン損保による共創事例画像/(右)広陵町と大分トリニータによる共創事例画像

 

本稿で後述する通り、「官民共創」には実施するにあたって幾つかのポイントがあります。「官民共創」が実証実験止まりとなったり、連携協定を締結してその後の進捗がない場合など、課題解決のプロセスが進まないことも散見されるようになっています。

本稿では、「官民共創」が求められるようになってきた社会的背景を解説した上で、「官民共創」を実現するためのポイントを整理しようと思います。

 

なお、「官民共創」に類似する呼び方として、「官民連携」もあります。「共創」は英語ではCo-creationであり、「連携」はCollaborationと訳します。「共創」と「連携」は似たような概念ですが、正確にいうとそれぞれの意味合いも異なっています。

「共創」はステークホルダーが一緒に価値を創るプロセスと成果である一方で、「連携」は共通価値に向けて手を取り合うことを指しています。現在進行形で、行政と企業の関係が連携から共創に移行し、公共サービスの在り方もビジネスの在り方も大きく変わってきています。

このほか、「コ・デザイン」や「参加型デザイン」という概念もあります。この「コ・デザイン」や「参加型デザイン」は一緒に試行錯誤を繰り返しながら、より良いモノ(価値)を生み出していくアプローチだと言えます。そういう意味では、「共創」も「コ・デザイン」、「参加型デザイン」もほぼ同じことを述べています。「共創」を進めるための具体的なスキームが「コ・デザイン」や「参加型デザイン」と言ってもいいかもしれません。

 

 

BACKGROUND官民共創求められるようになってきた社会的背景

(1)行政だけに公共サービスを頼ることの限界

グラフは、総務省が発行している「令和5年版地方財政白書」の、地方自治体の経常収支比率の推移です。経常収支比率とは、かんたんに言うと、「固定的な経費がどれくらいあるか」というものです。

 

 

都道府県では近年、93~95%程度、市町村では90~94%程度、自治体全体では93~94%程度で推移しています。固定的な経費は、公務員の人件費や扶助費と呼ばれる住民の社会保障にかかわる経費、あとは借金返済などが挙げられます。

この経常収支比率はもちろん低い方がいいと言え、低い方が「財政に弾力性がある」と呼ばれます。自由に使えるお金が増えるからです。収入が多ければ多いほどいいのですが、その分支出が多ければあまり意味がありません。会社経営もそうですが、自治体財政もバランスシートで見なければならないのです。

 

自治体財政で自由に使えるお金というのは、本当に少ないのが実情です。例えば1600億円程度の一般会計予算規模、人口30万人余りという、ある中核市を例にとれば、一般会計予算の5%は80億円です。この80億円から「投資的経費」と呼ぶ道路や橋、学校、公園などの建設・修繕等の費用を捻出しつつ、さらに余ったお金で、自治体独自の施策に取り組みます。一言でいえば、多くの自治体は「貧乏」なのです。

いうまでもなく、右肩あがりの時代には経済と同時に、行政サービスを支える財政も右肩あがりに伸びてきましたが、それも遠い昔。大きな企業もなく都市部でもなく、これといった稼げる産業もない地方の自治体にとって、これまでは国が再分配により必要な財政を支えてきていましたが、それも限界は当に過ぎています。使えるお金がほとんどない自治体にとって、頼りになるのは今の時代、民間となってきたのです。

 

日本において「民間でできることは民間で!」ということで、進められてきたのが「小さい政府」志向の、市場化テストや指定管理者制度、ネーミングライツ(命名権)、PFI(民間資金活用による社会資本整備)、PPP(官民連携)です。

古くは1980年代の電電公社や国鉄の民営化などが挙げられ、2000年代に入ってからは指定管理制度などが制度化されることにより、地方においても公共を民間が担うことが増えてきました。いわゆる「NPM」、ニューパブリックマネジメント、「新しい公共経営」の考え方です。

行政がやると経常的にお金が必要なのを、民間に任せることで新しいアイデア、発想で良いサービス展開ができるようになる。また、単純に行政が運営するよりも安く運営することができるとされています。こうした考え方が社会に浸透し、この数十年間の世界的なトレンドとしてNPMは推進されてきました。

 

一方でその弊害も2010年代から目立ってきたように感じられます。

例えば、人口減少が顕著に進む山間部では公共交通網が弱体化し、若者のみならず医療介護を必要とする方や買い物弱者となった方が移動困難地域から都市部へ移り住み、さらに利用者が減った山間部ではスパイラル状に公共交通網や公共サービスが届けられにくくなっています。単純に行政が民間企業に委託したり民営化するだけでは解決できない課題が顕在化しています。

2019年に経済産業省のウェブサイトに一本のレポートが掲載されました。「21世紀の『公共』の設計図」というものです。ここで、「政府が公共の一切を管理し運営する社会では、サービスの質が低下してしまう」と述べられています。

地方自治法の「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」(第2条第14項)を達成するのが難しい状況にある、ということを中央省庁が公式レポートで認めるというのは非常に衝撃の大きいことでした。

 

これまで一人ひとりが安心して生活できることを行政が中心となって担ってきました。しかし、行政にはそれを支える余力がなくなりつつあり、またNPMの課題も目立つようになってきた中で、行政が公共サービスを民間に下請けに出したり、市場化したりするのではなく、行政と民間企業が共に解決すべき社会、地域課題を考え、その解決のために知恵とリソースを出し合う「官民共創」という概念が生まれてきました。

 

 

(2)「公共」を問い直す機運の高まり

「公共」は行政が一義的に担うもの。なんとなく、こういう認識が多くの国民にあるのではないでしょうか。日本では、「公共」とは「おおやけ(公)」、「おかみ(役所)」のような位置づけで捉えられえていることも多いと思います。

日本の統治システムは、かねて日本では「上から」降ってくるものでした。自由民権運動により、一般国民の政治参画は徐々に進んでいったものの、「人権」という文脈からの「抵抗・獲得」が中心だったように映ります。

大きな流れとしては、「おかみ(役所)」が言うことに臣民は従う中で、自分たちが「人」として生きていくために平等性の観点から、ひとつずつ自由の領域を獲得していったと考えられます。これは明治以降に限った話ではありません。封建制度下にあった江戸期は「殿様」が「領民」を統治するスタイルでした。長らく固定された身分制度は当たり前のものであったし、「公共」は殿様が担うものでした。

 

戦後、日本国憲法が制定され、普通選挙権が国民に付与され、国民主権が確立しました。しかし実際には、国がやることを決めて、(機関委任事務として)自治体に仕事を下請けに出し、自治体はそれをこなしてきた。公共の担い手は、やはり行政であったと考えても良いかもしれないのです。

いま、世の中は、大きな揺り戻し期にあります。人口減少や少子高齢化だけではなく、長引く経済低迷、個人の出現による価値観の多様化などが背景にあります。もはや「公共」を弱り切った行政だけに任せておくには厳しい時代が到来しています。だから、「公共」を、みんなで担おうという考え方が広く理解を得られるようになってきています。

 

ここで一つ考えたいと思います。そもそも「公共」というものが、曖昧な概念です。「公共」とは何でしょうか? 

「公共」とは、「社会一般。公衆」とされます。ただやはり分かりにくいですよね。もともと日本語ではなかったので、なんとも捉えどころがありません。英語では「パブリック」(public)と呼びますが、この「public」は語源に遡って考えてみると、「publ」は“人々”であり、「ic」は“〜の”という意味だということなので、合わせて考えてみると、「人々の、公の、共通の、一般の、民衆の」というところを指す言葉だと言われます。

敢えて分かりやすい日本語にするとすれば、「みんなの」というのが「公共」「パブリック」という言葉が意味するところではないでしょうか。

 

2021年の12月。デジタル庁における議論で、聞き慣れないワードが紹介されました。「準公共」です。

 

※出所:デジタル庁 デジタル社会の実現に向けた重点計画 (概要)

 

デジタル庁がディスカッションペーパーであらわした「準公共」という概念は、これまで公共は行政が担うものと定義されていたものが、実は市民や企業が担う部分もある、つまり公共にはグラデーションがあるのだということを、初めて政府が示したものなのです。

 

国が示す「準公共」分野には、食関連産業、モビリティ、港湾、インフラ、こども、教育、健康・医療・介護、防災などが該当しています。いずれも行政がこれまで一義的に担ってきた分野です。

「おおやけ」が、「ここが準公共ですよ!」というのを定義するのもおかしいといえばおかしいのですが、国と国民は対立するものではなくパートナーであることを踏まえると、国はディスカッションのためのアジェンダを提示していると考えれば前向きになれます。「公共の再定義」を国が私たちに投げかけているのです。

私たちは、一人ひとりの生活がより良くしていくために、何ができるのでしょうか。「おおやけ」が、「この公共サービスをやりましょう!」といって、公共サービスを定義するのではなく、わたしたち自身が「公共サービスを定義していく」ことが求められているように思うのです。

 

(3)成長の機会としての社会課題

2022年夏に発表された『経済財政運営と改革の基本方針2022』(通称「骨太の方針2022」では、行政だけではなく、民間との共創によって社会課題解決に取り組む意義について述べられています。

 

我々はこれまでの延長線上にない世界を生きている。

世界を一変させた新型コロナウイルス感染症、力による一方的な現状変更という国際秩序の根幹を揺るがすロシアのウクライナ侵略、権威主義的国家による民主主義・自由主義への挑戦、一刻の猶予も許さない気候変動問題など我が国を取り巻く環境に地殻変動とも言うべき構造変化が生じるとともに、国内においては、回復の足取りが依然脆弱な中での輸入資源価格高騰による海外への所得流出、コロナ禍で更に進む人口減少・少子高齢化、潜在成長率の停滞、災害の頻発化・激甚化など、内外の難局が同時に、そして複合的に押し寄せている。

我々に求められるのは、この難局を単に乗り越えるだけでなく、こうした社会課題の解決に向けた取組それ自体を付加価値創造の源泉として成長戦略に位置付け、官民が協働して重点的な投資と規制・制度改革を中長期的かつ計画的に実施することにより、課題解決と経済成長を同時に実現しながら、経済社会の構造を変化に対してより強靱で持続可能なものに変革する「新しい資本主義」を起動することである。

こうして我々自身の資本主義をバージョンアップすることにより、自由で公正な経済体制を一層強化していく。

 

「骨太の方針」とは今後の日本政府における中長期的なビジョンを示し、次年度以降何を重点的に取り組むかを示すものである。この「骨太の方針」に基づいて、法制度が整備され予算編成が進められています。

この「骨太方針」の記載事項は2023年版にも引き継がれています。

 

我が国は内外の歴史的・構造的な変化と課題に直面している。世界においては、ロシアによるウクライナ侵略が国際秩序の根幹を揺るがす中でこれまで以上に重要となる「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の維持・強化、インフレ圧力と欧米各国の急速な金融引締めによる世界経済の下振れリスクへの対応、深刻さを増す世界規模での気候変動や災害問題の克服、エネルギー・食料問題を含む経済安全保障に対応したサプライチェーンの再構築など、世界的な課題に対する果断な対応と国際協調が一層求められている。

国内においては、四半世紀にわたるデフレ経済からの脱却、急速に進行する少子化とその背景にある若年層の将来不安への対応、雇用形態や年齢、性別等を問わず生涯を通じて自らの働き方を選択でき、格差が固定化されない誰もが暮らしやすい包摂社会の実現、気候変動や新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた持続可能な経済社会の構築など、我々の意識の変化や社会変革を求める構造的な課題に直面している。

こうした変化に対応した経済社会の変革を進め、社会課題の解決に向けた取組それ自体を成長のエンジンに変えることで、持続可能で包摂的な社会を構築し、裾野の広い成長と適切な分配が相互に好循環をもたらす「成長と分配の好循環」を目指す。

 

つまり、社会課題の解決に向けた取り組みが、イコールで「付加価値創造の源泉」であり「成長のエンジン」であるといいます。

これは日本政府だけが突出して取り上げている概念ではありません。実はこの概念は世界的な潮流となっているのです。国際連合が提唱したSDGsは当初こそビジョンに過ぎませんでしたが、ESG投資などと連動し始めたことで、従来のCSRとは異なる概念として経済と社会課題が結びつき始めました。

世界経済フォーラム(ダボス会議)では、2020年に”ステークホルダー資本主義”が改めて提起され、世界最大の投資運用を行うブラックロックCEOは地球環境やステークホルダー資本主義に企業が取り組む意義を近年発信し続けています。どちらかというと日本は若干遅れ気味ではありますが、こうした潮流に乗り、社会課題をビジネスで解決しようとする政策に本腰を上げ始めたのです。

 

「課題」というのは、生来的にそこに存在するものではなく、あくまで「人」が「課題」だと認識したものが「課題」になるわけです。そう考えると、価値観の多様化やSNSなどの普及によって、「課題」はどんどん生成されるわけであり、多くの人がその問題を「課題」と認識することよって、「社会課題」や「地域課題」になっていくのです。

多くの人が課題ととらえる「不」を解消するために、公共サービスで担いきれない部分を行政と民間が協働して取り組むことは、地域の活性化やまちづくりはもちろん、一人ひとりの生活の向上にもつながっていきます。そこにマーケットを生み出せるかは、官と民が織りなし生み出すアイデア次第であり、そこに官民共創の必要性、存在価値があるのです。

 

山口周さんは2023年半ばから、従来顕在化していた社会課題にアプローチする「ソーシャル・ビジネス」とは別に、新たに社会課題を定義しアプローチするビジネスを「クリティカル・ビジネス」と呼んでいます。

社会課題解決をビジネスで取り組むために、従来から目に見えていた課題を解決していくことはもちろんのこと、これまで見えてこなかった社会課題を見つけ、解決していくことは、付加価値創造の源泉であり、成長のエンジンになるとだと考えられ、これから大きく注目されてくることと考えられます。

 

 

OUTCOME「官民共創」によって実現できること

もちろん、官民共創でなくとも社会課題解決には取り組めるでしょう。民間と民間が共創しても課題解決には取り組めます。しかし官民共創だからこそ得られることもある。

山口周さんの著書「ビジネスの未来:エコノミーにヒューマニティを取り戻す」に、経済成長の「高原」に達した私たちは、「真に豊かで生きるに値する社会」へ移行していく必要があると述べられます。

そして、多様化する価値観の中で行政だけで様々な社会ニーズに対応していくことは困難であるものの、社会から求められる公共性をカバーしていくためには民間と行政が協働して埋めていく必要性があるとし、「経済限界性曲線」と「公共サービス」の関係性を用いて、官民共創をありようを可視化されました。

 

※出所:近畿経済産業局 官民連携推進セミナー  株式会社ソーシャル・エックス伊佐治氏・藤井氏登壇資料を加工

 

行政の枯渇する財政を補完・代替するための民間の資金。さらに住民(市民)の「公共」への施策推進への参画も求められます。山口さんも述べられているが、行政と民間企業が協働し、新たな価値を生み出していく原動力となっているのが、「テクノロジー」です。民間の持つ「テクノロジー」を使って、公共サービスを塗り替えていくのです。

そしてここで着目すべきが「行政」の関わり方、持っているリソースです。行政に財政的な期待ができないとすれば、行政は一体どのようなリソースを官民共創で提供することができるのでしょうか。

 

官民共創で行政が果たすべき最大の役割は「地域資源のプラットフォーム」です。地域の様々なステークホルダーとの関わりを公平公正に持っているのは行政でしょう。

お金は民間企業で用意できるかもしれませんし、テクノロジーは民間企業が持ち込むものだとしたら、行政が準備できるものは地域や関係者とのネットワークです。地域の住民とのつながりはもちろん、例えば地域の医師会、町内会、商工会議所や商工会などの経済界との繋がりなどです。

こうしたものは一民間企業が一から構築しようものなら、どれほどの労力を要するでしょうか。行政は公平公正な存在であるが故に、多数の地域のネットワークを持ちます。官民共創において、これは非常に大きなリソースとなり得ます。民間企業にとっては、行政と組むメリットはここにあるのです。

 

近年、社会課題解決や企業の新規事業開発において、リビング・ラボや参加型デザインのアプローチで取り組まれることが多くあります。住民や公共サービスの利用者、地域の事業者などは一民間企業であれば接点を持つことや、継続的な関係性を持ち続けることはなかなか困難です。

そうしたときに行政は大きな力となってくれるでしょう。地域の様々なステークホルダーとネットワークを有するプラットフォーマーとしての行政であれば、民間企業が社会課題解決と事業開発を両立しながらプロジェクトを進めていく上で、最善のパートナーとなってくれるはずです。

 

 

POINT官民共創を進める上でのポイント

官民共創の臨場感を伝えるメディア「SOCIAL TIMES」では、官民共創を進めるためのリアルな現場をお伝えしています。官と民の共創がうまく進むケースもあれば、そうではないケースもその裏側には多数あります。そうした様々なケースを踏まえて、社会課題の解決につなげる官民共創のポイントを4つに整理したいと思います。

 

(1)行政と民間がフラットな立場であること

官民共創は、何よりも両者がフラットで対等な立場であることが前提です。従来のように行政が仕様書を作成し、その内容に沿って民間企業が受託するような関係では課題解決につながらなければ民間企業にとっても、殆ど得るものはありません。

そうした関係性を築くためには、「営業」や「説得」ではなく「対話」が必要であるし、社会課題起点で出会うことが求められます。お上意識が根強く残る日本において、行政と民間のフラットな関係性づくりは共創を進める上でとても大切なポイントとなっています。

 

(2)行政と民間がお互い、何を目指しているのかを理解していること

多くの官民連携プロジェクトは実証実験止まりや、連携協定を結んで終わりとなっています。行政にとっても、民間企業にとってもそうした事態は本来望ましいわけではありません。

ではなぜそうしたことが起きるのでしょうか。それは両者の思惑が相互にうまく共有されていないからです。行政には行政の思惑があるし、民間企業にはその企業の考えがあります。これは立場が違うので違って当たり前ですが、問題なのはそれがお互いに共有されておらず建前的に連携が進むことにあります。

当該プロジェクトのミッションは何なのか、お互い、何を目標として取り組んでいるのかを明らかにしておきたいところです。

 

(3)解決策ありきではなく、課題定義の段階から始める

社会課題を所与のものとして、解決策を練るところから共創が始まるケースもあります。しかし、そうした場合は自社製品やサービスを当てはめて、解決を講じようとすることになります。結果的にそれはユーザーである利用者や市民、事業者、地域にとってフィットしないこともあるはずです。

プロダクトアウトではなく、マーケットイン思考が求められるのです。又、そもそも解決しようとする社会課題を正しく分析し、何が問題なのかを両者で共有しておくことが必要です。大きな社会課題を提示し、そこに行政と民間企業が集まり、一緒に課題そのものについて議論していくことができるのであれば、官民共創の土壌としてはとても素晴らしいものと言えます。

 

(4)失敗で終わらせない

官と民が共創して取り組むときによくあるのが実証実験を一度やって終わるケースです。失敗を失敗で終わらせればもったいないです。失敗は成功のもと。失敗だったしても得られた教訓を生かして、目指す成果に向けて反復的なチャレンジをしたいところです。

そのために障壁となることが多いのが行政による財政負担です。議会や市民への説明責任を果たす必要があるため、何度もチャレンジすることができない場合があるのです。そのため、民間企業側が必要資金を提供していくことも求められます。

 

(5)プロジェクトを進める上で中立的な第三者がいることが望ましい

自治体は解決すべき社会課題をよく理解していますが、それを民間企業向けに言語化する経験があまりありません。結果として官民共創はコミュニケーションがうまくいかなかったり、民間企業にとって魅力ある事業開発ができずに終わることが多くあります。

こうした事態を未然に防ぐには、官と民の仲介役の存在があることが望ましいと言えます。こうした存在は、オーガナイザーや中間支援事業者と言われます。行政の課題を民間向けに言語化するノウハウ、経験を有し、共創プロジェクトをマネジメントする能力が必要となります。

又、プロジェクトを進行する中では多様なステークホルダーとの調整などを行うこともあり、そうした場合はコーディネート能力やデザイン思考などが重要となります。

 

 

以上、「官民共創とは」というテーマで、本稿を整理した。複雑で多様な社会課題を解決していくためには、官と民との共創が欠かせないことは既に論じた通りです。

官民共創は、社会課題を解決するアプローチであり、民間企業にとっては事業機会を拡張させるものともなりえるでしょう。「SOCIAL TIMES」には、多くの共創事例や生み出された成果や価値を紹介しています。

 

編)SOCIAL TIMES 編集部