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創業80年企業の官民共創への挑戦(中編)|株式会社オートマイズ・ラボ 代表取締役 藤山幸二郎氏インタビュー

2024年04月23日

創業80年企業の官民共創への挑戦(中編)|株式会社オートマイズ・ラボ 代表取締役 藤山幸二郎氏インタビュー

全国の河川やため池に設置された水門の多くは手動で開閉する必要があり、豪雨時等における操作員の安全性確保が大きな社会課題となっています。この課題の解決に向けて、官民共創で実証実験に取り組むのが株式会社オートマイズ・ラボ(以下、「オートマイズ・ラボ社」)です。 オートマイズ・ラボ社の製品である「水門ボット®」は、既存の施設機器に「後付け」することで水門の開閉が自動制御できます。従来、買い替える他に手段がなかった施設機器の自動化を、既存の施設機器を生かす形で実現したオートマイズ・ラボ社の製品は、まさにものづくりにおけるイノベーションと言えます。 さて、そんな「水門ボット®」をはじめとした製品は、どのような過程を経て生み出されたのでしょうか?藤山幸二郎代表取締役にインタビューを行いました。

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目次

INNOVATION学びへの意欲が生み出したイノベーション

ーーオートマイズ・ラボ社の「水門ボット®」を用いた実証事業は「令和4年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金事業」に採択されており、福岡・山梨・長野・京都・佐賀など各地で官民共創の取り組みが進められています。

「後付け自動化」というコンセプトは発想の転換と言えますが、「水門ボット®」を開発するに至った経緯をお話いただけますか?

オートマイズ・ラボ社

藤山代表取締役

 

私は、船舶部品の供給や修理サービスを展開する株式会社鷹取製作所の代表取締役でもあります。オートマイズ・ラボ社は、鷹取製作所とは資本関係をほぼ持たずに、市場も製品も異なる分野へ挑戦しようと2020年4月に設立しました。

鷹取製作所は、祖父が艦船に使う電動油圧舵取装置を製作するために創立した会社です。私は父に次いで3代目になります。

鷹取製作所は、終戦後は民間の船舶部品の製作にシフトしていきましたが、当然ながら価格競争の波がやってきました。そこで、船舶以外の市場開拓を目指そうと考えるようになったのです。

私はMOT(技術経営)を学びながら盛和塾にも参加し、国内外の様々な経営者や有識者の方とご縁をいただきました。そして、これまで手を出してこなかった多角化戦略に乗り出す決心をしました。高い志を持つ方たちから刺激を受けたのです。オートマイズ・ラボ社はこのような経緯で設立しました。

設立後はまず、鷹取製作所の技術を生かして「バルブオートマイザー®」を開発しました。既設の手動バルブを後付け自動化するという製品です。しかし、販売に苦戦を強いられました。

この状況を打破したいと思い、九州経済産業局が主催する「九州デザイン経営ゼミ」に参加することにしました。そこでデザイン経営に関する学びを深めていくうちに、水門に関する社会課題を知りました。これはバルブ機能が展開できる領域だと感じ、すぐに水門をリモートで自動開閉するアイデアを起草して3日後には商標登録をしました。そこから3ヶ月間で「水門ボット®」を開発しています。

 

ーー藤山社長の学び続ける姿勢には頭が下がります。「水門ボット®」の開発は驚くほどのスピード感で進んだのですね。

藤山氏:スタートアップとして軽快に動けたことが良かったのだと思います。鷹取製作所は創業80年でグループ会社もあります。長く経営が続くのはありがたいことですが、組織が大きくなると少々動きが遅くなるところもあります。

一方オートマイズ・ラボ社は少数精鋭で、デザイン経営を実践する経営者や、弁護士・弁理士、税理士など各種の専門家がメンバーとして集っています。全員が高い挑戦意欲を持っていることも、事業のスピードに関係していると思います。それぞれのパフォーマンスがうまく掛け合わさっていますね。

※全国各地で実証実験が展開されている「水門ボット®」

 

 

HEART「利他の精神」が周囲を動かす

ーーオートマイズ・ラボ社の実証事業には自治体のみならず、様々な企業が関わっています。例えば、「ため池遠隔水位監視システム」を有するエクシオグループ株式会社とは共同で実証実験を行いましたし、マーケティングの面では双日九州株式会社が連携しています。多様なステークホルダーを巻き込める秘訣は何でしょうか?

藤山氏:いろいろな方のご縁に支えられて進めてこられたと思っています。皆に共通することと言えば、やはり「目の前で困っている人を助けたい。社会に役立つ製品を提供したい。」という思いではないでしょうか。

手動水門の操作員のなり手不足や高齢化、そして開閉作業の負荷や危険性という問題は、紛れもなく存在しています。今すぐになんとかしなければならないのです。そういった使命感を持った弊社のメンバーが、共感いただける方とのご縁を次々に運んできてくれました。

 


ーー今回のインタビューには、双日九州の山口部長(当時)も同席されています。山口部長が最初に「バルブオートマイザー®」を見たときの印象とその技術を活用した「水門ボット®」についてどう思われましたか?

山口氏:「バルブオートマイザー®」を見せていただいたときは、すごくコンパクトであることに驚きました。それと同時に、オートマイズ・ラボ社の製品のコンセプトである「後付け自動化」についても今からの時代に必要なアプローチであり、ソリューションだとピンと来ました。確かに、既存設備の買い替えよりもはるかに簡単に自動化ができると。

その「バルブオートマイザー®」の技術をバルブから水門へと活かした「水門ボット®」についても、行政が公開しているデータ等によると手動水門は全国至るところにあり、マーケット感のイメージもできました。

実際に、自治体や操作員の方たちの声を聞くと、非常にお困りであることも分かりました。藤山社長がおっしゃる通り、早急に解決しなければならない社会課題だったのです。

また、オートマイズ・ラボ社の「後付け自動化」の技術は、水門やバルブに限らず他の手動機器にも転用できる可能性があります。昨今、多くの業界で人手不足の問題や業務効率化、技術の伝承、安心・安全な職場環境等が叫ばれる中、その解決策として大きなポテンシャルを秘めていると思いました。


藤山氏:山口部長には「水門ボット®」がプロトタイプの頃からお世話になっています。とても熱心に動いてくださり、「水門ボット®」を広めるためのお知恵やご縁をたくさんいただきました。

 

ーー藤山社長の「利他の精神」が伝播した結果、様々な協力者が現れたのですね。

藤山氏:「利他の精神」を綺麗事と言う方が世の中にはいますが、私はそう思ってはいません。80年前に祖父が鷹取製作所を創立した理由は「戦後の混乱の中でも地域の人たちの働ける場所を作るため」でした。まさに「利他の精神」です。

その心意気を父も踏襲しました。父は会社を継いだ後、従業員の生活が豊かになるのを見届け、最後の最後にようやく自分の家を建て替えました。ですから、私が幼い頃の生活は質素なものでした。それでも父の懸命に働く姿から私は「世のため人のために生きる」ことを教わりました。そういった精神が私の中には溶け込んでいるのだと思います。

株式会社鷹取製作所Webサイトより引用


ーー企業の目的は利益の追求だと言われます。あながち間違いではありませんが、それだけではないように思います。

藤山氏:利益を上げることはもちろん重要ですが、お天道様に恥じない行いが伴っているかも大切な視点です。その積み重ねがあるからこそ、いざという時に道が拓けるのだと思います。

私の父は、鷹取製作所が苦境の時期を乗り越えました。その決め手となる決断をして下さったのは、「明確な経営ビジョンを持っており、人物にも高い信頼がおけるから」という理由で父を信頼し、重要な部品を掛け売りしてくださった上場企業の専務の方でした。

祖父や父の生き方もそうですが、志の高い諸先輩方の行いを見ていると、まだまだ私も自己研鑽を続けていかねばと刺激を受けます。助け助けられ、周りの人たちのおかげで自分たちがあると思うことが、事業を行う者の精神として大切なのではないでしょうか。

 

 

CO-CREATION「また会いたい」と思ってもらえるように

ーーオートマイズ・ラボ社の根底に流れる精神をお聞かせいただきありがとうございます。最後に、官民共創を推進するにあたって意識していることをお話いただけますか?

オートマイズ・ラボ社

藤山代表取締役

 

対等な関係性を築くことです。これは自治体の皆さまのみならず、事業に関わるメンバーに対しても当てはまる姿勢です。「〇〇してやっている」という上下意識で人と接していては、良好な関係は長続きしません。誰しも自分が知っていることや得意なことは限られているのですから、相手と考えを分かち合ったり、力を合わせてパフォーマンスを最大化させることが重要です。

自治体の皆さんとの共創において、私たちは常に「お客様から学ぶ姿勢」でいました。水門管理の現場を最もよく知るのは自治体の担当課の方や、操作員の方です。それぞれの知見や技術を持ち寄ることで課題は解決に向かうと考えているので、皆さんとのコミュニケーションを強く意識しました。

「また会いたい」と思ってもらえるような人や企業になることを、行動の指針にしています。