創業80年企業の官民共創への挑戦(前編)|水門の社会課題を自動化で解決へ
福岡県福岡市に拠点を構える株式会社オートマイズ・ラボ(以下、「オートマイズ・ラボ社」)は、創業80年を迎えた株式会社鷹取製作所から独立(カーブアウト)して2020年4月に設立された企業です。 「既存の設備機器を後付け自動化すること」を事業テーマに、人の手で操作をする必要がある設備や機器に対し、装置を後付けして自動化を実現するソリューションを展開しています。これは既存設備や機器を生かす方式のため、コストや納期の面で従来の「買い替え」よりも大きなメリットがあります。 この記事では、オートマイズ・ラボ社の製品の一つである「水門ボット®」を用いて行われた実証実験について取り上げます。どのような社会課題にアプローチする取り組みなのか、ぜひご覧ください。
PROBLEM豪雨災害と水門、ため池管理の課題
全国の河川には流水を制御するために150万台を超える水門が設置されています。しかし、一部の大型水門を除き多くが手動式であり、開閉は重労働です。よって、水門・排水ポンプ操作員のなり手不足や高齢化、操作中の事故が大きな社会問題となっています。
特に近年は全国で豪雨が多発しており、河川の水位が増す中での水門の操作は危険を極めます。実際に2021年8月には佐賀県で大雨中に操作員が死亡する事故があったことからも、水門操作における安全確保が重要な課題となっています。
また、ため池管理にも同様の課題があります。農業用水の貯水を目的に作られたため池は全国に約15万箇所存在しており、手動水門により水量が調節されています。老朽化が進んだため池は豪雨時に決壊が起きやすく、その状況下での水門の開閉作業が危険視されています。
CHALLENGE複数自治体にて水門自動制御の実証実験
前述した社会課題の解決を目指し、オートマイズ・ラボ社は自社製品の「水門ボット®」(※)を用いた実証実験を行うべく、「令和4年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業補助金事業」に申請。採択を受け、国の補助事業として全国各地で実証実験を展開しました。
(※)既設の手動水門に「水門ボット®」及びオプション(監視カメラ、太陽光パネル、バッテリー、通信ユニット)を設置することで、手動水門の自動化や遠隔操作化を実現する製品。
2022年には福岡県うきは市、飯塚市、柳川市、久留米市、大牟田市の9箇所の水門に「水門ボット®」を設置し、各自治体の河川管理組織と共同で効果を検証。手動であれば全閉から全開まで1時間かかる水門について、1/4の時間で自動開閉ができることを確認しました。動作の不具合も起こることはなく、水門操作の自動化が十分可能なことが実証されたと言えます。
※各地の手動水門に「後付け」された「水門ボット®」
さらに2023年には、「水門ボット®」の河川等の氾濫防止能力を確認するため、山梨県北杜市、長野県長野市、京都府京都市、京都府福知山市にて、「ため池遠隔水位監視システム」を有するエクシオグループ株式会社と連携して実証実験を実施。
ため池監視システムで計測した水量や雨量データを「水門ボット®」に送信し、ため池の水位が最適になるよう水門の開度を自動制御する試みを行いました。複数の「水門ボット®」をため池下流の河川にも設置し、協調制御による河川水量のコントロールも検証しています。
また、佐賀県神埼市では、河川の中でも支流と分水路が密集する浸水リスクの高いエリアに「水門ボット®」を設置し、洪水防止能力や水利用最適化能力を検証する取り組みが行われました。
INNOVATION艦船用バルブの技術を転用しブレイクスルー
オートマイズ・ラボ社の「水門ボット®」をはじめとする「既存の設備機器の後付け自動化ソリューション」は、艦船用バルブの技術を転用して生まれたものです。
同社は、船舶部品の供給や修理サービスを展開する株式会社鷹取製作所と資本関係をほぼ持たずに、市場も製品も異なる分野へ挑戦しようとして設立した会社です。
鷹取製作所とオートマイズ・ラボ社、両方の代表取締役を務める藤山幸二郎氏は「創業80年を迎える鷹取製作所の存在意義」を、オートマイズ・ラボ社にも見出していました。
次回の記事では、藤山代表取締役のインタビューを通じて、イノベーションが起こるまでの過程や官民共創に対するマインドセットをお伝えしていきます。