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高齢化に悩む竹山団地と神奈川大学サッカー部による地域再生の挑戦 ー大森監督流「人材育成」ー(前編)

2024年02月13日

高齢化に悩む竹山団地と神奈川大学サッカー部による地域再生の挑戦 ー大森監督流「人材育成」ー(前編)

横浜市緑区にある竹山団地。高齢化率が50%に近いこの団地で、地域と神奈川大学サッカー部、神奈川県住宅供給公社が手を取り合った「官民共創」による地域再生の挑戦、「竹山プロジェクト」。この記事では、神奈川大学サッカー部大森監督流の「人材育成」に迫ります。

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目次

SKILL UP地域交流でサッカーがうまくなる!?

高齢化が進んだ竹山団地に、神奈川大学サッカー部の部員たちが住み込み、地域交流を行う「竹山プロジェクト」。そこには、大森酉三郎監督の考える、サッカーを通した人材育成への構想があります。

神奈川大学サッカー部では、日々の活動の中で「F+1」という理念を掲げています。「F」はフットボール。「+1」は別の新しい何かにチャレンジすること。つまり、選手としてだけでなく、人として成長していくことが必要である、というメッセージです。

スポーツ競技と社会的スキルには深い関係があると大森監督は考えています。

『一流の選手になるほど、スポーツの技術的なスキルに加えて、社会的スキルや心理的能力が与える影響が大きい。大きな舞台で活躍するには、心が育っていることが重要だ』と。

心を育てるのに最も適した場所として選び抜かれたのが、この竹山団地だったのです。

 

 

SOCIAL SKILL大森監督の考える人材育成とは

スポーツ経験が、社会的スキルを向上させると言われています。しかし大森監督は、むしろ逆である「社会的スキルを獲得していることが、スポーツ成績に影響を及ぼす」と考えます。

知識や技術は指導者から学ぶことができますが、社会スキルを含む心理的能力は、自らの経験を通して初めて身につけることができるものです。指導者の知識を受け身で取り入れるのではなく、社会的な実践活動を通して、自発的な行動を自らが行うことによってのみ、アイデンティティを変容させてくことができます。

 

サッカーの試合時間90分のうち、実際に試合が動くのは60分。それ以外は、審判の対応など試合が止まっている時間です。その中、ボールを持つ時間は、長い人でも2分と言われています。

つまり、58分30秒程度はチームのために「裏方」として動いていることになるのです。そうであるならば、その58分30秒をいかに工夫して心を注ぎ、意味のあるものにするか。一人ひとりがそう思うことが、チームとしての成功につながります。地域のため、人のために裏方として動くこと。部員たちは、団地での生活を通して様々な経験を重ね、社会性を身に着けていきます。

団地で行うトレーニングメニューとして掲げるのは、シンプルに3つ。「挨拶」「整理整頓」「素直」です。これを意識しながら様々な活動を行い、課題を見つけ地域の方を巻き込んで解決していきます。

そういった経験が、自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意思決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキルなど、サッカーに必要なスキルへと繋がっていきます。高齢者をはじめ、地域住民の方たちが、彼らのコーチです。

また、そうやって育った部員たちが社会に出ていった後も、地域に溶け込み、地域貢献でコミュニティをリードしていくマインドを持った人材として、日本の明るい未来に貢献してくれることを、大森監督は思い描いています。

 

 

LEARNING竹山団地で部員たちが経験していること

部員たちは、これまで4年にわたる取組みを通して様々な経験を重ねてきました。親元を離れ、他学年のメンバー2〜3人との共同生活をしています。

竹山団地の象徴である池の水を抜いた「掻い掘り」に協力し、地域の清掃活動や防災活動、カフェ、畑の運営、花火大会や灯籠流しなどイベントへの協力、竹山小学校の総合学習への協力、学生消防団活動などを行っています。

あるとき、「カフェ」だと高齢者が入店しづらいのではと考え、「喫茶」と名前を変えてみたら人が集まった、ということがあったそうです。ひとつひとつが彼らにとってゼロイチの新規事業であり、それを、地域の方たちや神奈川県公社の協力や見守りを得ながら進めてきました。

時には苦情が来たり、高すぎる期待を寄せられたりすることもあると言います。そんな時に防波堤として間に入ってくれるのもまた、自治会の方たちでした。

「どんな時でも、あなたを守るのは人と人の絆です」と吉川会長は言います。

「ただ、自分を犠牲にしてまで、地域貢献してもらおうとは思っていません。自分の本業や目的・夢を忘れないでください。共に同じ目的を持った同志として、楽しい時間を共有していきましょう」。

このような思いで見守る大人がいることが、この取組みを絶妙なバランスに保ってくれているのでしょう。「みんな本当に成長したよね」と、自治会の方たちは口々にエピソードを語りました。

>後編に続く