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官民共創プロジェクトを経たスタートアップに起きた変化:ドクターメイト株式会社 代表取締役 青柳 直樹 氏インタビュー

2024年03月12日

官民共創プロジェクトを経たスタートアップに起きた変化:ドクターメイト株式会社 代表取締役 青柳 直樹 氏インタビュー

この記事では、北九州市との官民共創プロジェクトが「内閣府地方創生SDGs官民連携優良事例優良事例」に選定されたドクターメイト株式会社(以下、「ドクターメイト社」)、青柳直樹代表取締役のインタビューをお届けします。医療系サービスのスタートアップである同社が官民共創を行うに至った経緯や、プロジェクト後に起きた変化についてお話しいただきました。

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目次

 

 

ドクターメイト株式会社 代表取締役医師 青柳 直樹 氏

2013年 千葉大学医学部卒業後、千葉市立病院で初期研修
2015年 千葉大学皮膚科学教室入局し、皮膚悪性腫瘍手術を専門に診察
2017年 ドクターメイト株式会社創業、代表取締役医師に就任。全体の経営と医療領域を管掌
2019年 医療法人淳仁会理事長就任。土日には外来診察、介護施設への往診を行う
2020年 ケアテック協会理事就任。CHIBAビジコン2019にて「ちば起業家大賞」を受賞
2023年 主軸事業である「夜間オンコール代行™サービス」が、内閣府地方創生SDGs官民連携優良事例に選定

 

 

PROJECT『「適切な夜間救急搬送モデル」の仕組みづくり』をテーマに北九州市と共創

ドクターメイト社と北九州市は、官民共創マッチングプラットフォーム「逆プロポ」を通じて連携し、2021年11月〜2022年9月にかけて共創プロジェクトを実施しました。

「高齢者施設の夜間緊急対応における現場職員の負荷を軽減し、介護作業の効率化や質の維持・向上、現場職員の働きがいを高めたい」とする北九州市に対し、ドクターメイト社が「夜間オンコール代行サービス™」を無償提供。

市内17の特別養護老人ホームに導入する実証実験(2022年2月1日〜2022年8月31日まで)にて効果を検証したところ、総利用回数が270回にのぼり、施設看護師の夜間オンコール対応の負担軽減につながりました。

 

 

(出典:ドクターメイト社プレスリリース

 

 

この取り組みは、官と民の協働でDXを推進し、イノベーションによる持続可能なまちづくりの形成や先進的な地域活性化につながったとして、2022年度「内閣府地方創生SDGs官民連携優良事例優良事例」に選定されています。

 

(出典:ドクターメイト社プレスリリース)

 

 

REASONなぜ、自治体と共創しようと思ったのか?

ーードクターメイト社は医療福祉に関するサービスを展開していますが、あくまでも対象は民間の介護施設等です。なぜ、自治体との共創に臨んだのですか?

青柳氏:理由は二つあります。一つは、「夜間オンコール代行サービス™」による効果を公的機関と連携して実証したいと考えていたからです。すでにサービス利用に関するデータは社内に蓄積されていましたが、そこに公的機関のものが加わることにより、より社会的に説得力のあるものになります。そこで、かねてから自治体との連携を望んでいました。

二つ目は、医療福祉領域におけるDXは、社会構造変革を伴ってはじめて成立すると考えているからです。この領域は公共インフラや社会保障制度が密接に関わっています。私たちのサービスのエンドユーザーは確かに民間の介護施設等になりますが、そこと関わる自治体にもDXの必要性や利便性を理解いただく必要があります。

介護施設等のみならず、自治体も良いと認めるソリューションであれば、社会構造変革が起きる可能性は十分あり得ます。私たちはそのチャレンジを、自治体の皆さんと行いたかったのです。

 

 

OUTCOME官民共創プロジェクトの後に起きた変化

※実証実験後に実施したアンケート調査では、北九州市内の特別養護老人ホーム17施設のアンケート回答者95名のうち76.8%からサービスが「有効」との回答を得られた。(出典:ドクターメイト社プレスリリース)

 

ーー北九州市との共創プロジェクトは非常に注目されましたが、ドクターメイト社にはどんな影響がありましたか?

青柳氏:メディアからの取材問い合わせや、VCからの資金調達に関する問い合わせが急増しました。プロジェクト前と比べると、5〜6倍の数にはなったと思います。ほとんどの方が「北九州市との共創プロジェクトのリリースを見た」とおっしゃっていたことから、影響の大きさを実感しました。

 

ーー「夜間オンコール代行サービス™」のエンドユーザーとされる施設等や、他の自治体からの問い合わせも増えましたか?

青柳氏:医療機関や介護施設からの問い合わせやサービス導入は増えましたが、自治体からの問い合わせはそれほど多くはありません。内閣府の優良事例として選ばれたとはいえ、情報はすぐに風化します。自治体の皆さんには、継続してアプローチを続ける必要があると思っています。

北九州市職員の皆さんとは、プロジェクト終了後も良い関係性を保っています。何か新しい取り組みをする際には「自治体の皆さんの視点から見てどう思いますか?」と、意見をいただくこともあります。共にプロジェクトを作り上げたことから信頼関係が生まれ、良いつながりに発展したのだと思います。

 

ーーメディアへの露出が倍増したことで、民間側から大きな反響を得たのですね。

青柳氏:採用に関しても反響が大きいです。「北九州市との共創プロジェクトを見て」という理由で当社にエントリーする方が増えました。やはり、大都市と連携したことにより当社の「見え方」が変わったのだと実感しました。

 

 

AWARENESSコミュニケーションの勘所

ーー北九州市とのプロジェクトを通じて、官民共創に関する「気づき」はありましたか?

青柳氏:職員の方々と密にコミュニケーションを行ったことで、「自治体の皆さんが気にかけるポイント」が理解できるようになってきました。それから、「翻訳者の存在は大きい」ということにも気づきました。

ここで言う「翻訳者」とは、企業と自治体の間に入ってコミュニケーションを調整してくださった逆プロポ事務局の皆さんのことです。いろいろな状況があって伝わらなかったり、こぼれてしまったコミュニケーションをフォローいただける存在がいることは心強かったです。

 

ーー民間企業が当たり前とする感覚で自治体に営業活動を行うと、コミュニケーションに齟齬が生まれやすいと聞きます。これに関してはどう思いますか?

青柳氏:民間企業同士が行う営業と同じ感覚で自治体と折衝を行うと、感覚のギャップに驚くかもしれません。

当社は北九州市と共創する前に、他の自治体のサポートをしていたことがあります。今から振り返るとですが、当時は「チャンスをものにしたい」と前のめりになっており、職員の方々とのコミュニケーションに齟齬が生まれていたと感じます。これは非常に反省しています。

そうした経験もあって、今はコミュニケーションのチューニングができるようになってきています。営業という概念を一旦横に置き、自治体の皆さんとの会話を楽しめるようになりました。

 

 

CO-CREATIONまずは足並みを揃えることから

(出典:ドクターメイト社プレスリリース)

 

ーー青柳代表から見て、官民共創を成功させるために大切なことは何だと思いますか?

青柳氏:お互い歩み寄ることではないでしょうか。私たちのようなスタートアップは日々の売り上げを追っていかなければならない側面があるため、短期スパンでものごとを考えがちです。

しかし、自治体の方々のお話をよく聞いてみると「皆さんのサービスがとても良いことは分かっている。しかしこちらは年次予算という枠組みがあるため、来月や再来月に答えを出すのが難しい。」とおっしゃいます。

日々、現場で企業からの営業を受けてはそう返さざるを得ない職員さんたちの心情を察すると、時間軸の捉え方を合わせていく必要があると感じます。それが先ほどお伝えした「コミュニケーションのチューニング」です。「まずは課題だけお伺いしたいです」というスタンスでコミュニケーションを開始した方が、自治体の皆さんとしても付き合いやすいのだろうと思います。

一方で、自治体の皆さんには課題解決に向けた熱量や、取り組みに対する主体性を持っていただけると嬉しいです。当社が共創した北九州市職員の皆さんは熱量が高い方たちばかりで、プロジェクトの段取りも率先して行ってくださいました。「お役所仕事」という先入観を持っていた私は、いい意味で裏切られたと感じました。

文化やルールが全く違う組織が協働するのが官民共創です。スタートの時点から互いに歩み寄り、足並みを揃えることが大切だと思います。

 

 

AFTER終わりに

「官民共創プロジェクトを経たスタートアップに起きた変化」というテーマのインタビューをお届けしました。

社会課題にリーチする事業を行う民間企業の方にとって、自治体と共創することの意義やプロセスを感じられる内容だったのではないでしょうか。

政府が骨太の方針にて、「社会課題の解決に向けた取組自体を付加価値の源泉として位置づけ、課題解決と経済成長を同時に実現する」と掲げているように、企業は従来の財務リターンだけではなく、社会的インパクトを創出することも求められています。

ドクターメイト社のような事例が今後も生まれることを期待します。