
2023年12月19日
民間企業出身者が官民共創の領域で活躍するには?【前編】
この記事では、「民間企業出身者が官民共創の領域で活躍するには?」というテーマで行ったグループインタビューの様子をお届けします。 本インタビューでは、民間の立場から社会課題解決に取り組む3名から、「官民共創における伴走者」としての本音を聞いていきます。
PROFILE対談者プロフィール

徳島県出身の地域再生コンサルタント。起業家教育に携わり、経済産業省の起業家育成などに参画したのち、2006年に創業。讃岐パスタの商品開発など、新規事業支援を行ってきた。2012年以降、「空き家再生+起業家育成」をセットにした官民連携事業を行う。徳島県上勝町では、空き交番のシェアハウス化、飲食事業者育成のシェアカフェ、ダム湖再生、自転車イベント、ヘルスツーリズムなどの観光事業を展開した。他に、徳島県三好市でのモビリティ事業など、西日本を中心に官民連携プロジェクトに携わってきた。2018年中小企業庁「創業機運醸成賞」受賞。現在、吉備国際大学講師、徳島県ヘルスケアビジネス支援アドバイザー。

1992年生まれ。国際教養大学卒業。2015年に東京海上日動火災保険に入社し法人営業・海外プロジェクトを経験。その後、東京海上HDにて中長期のデジタル戦略立案や、グループ会社や自治体と連携した新規事業/新サービス開発を担当。2022年4月にスタートアップに移り、日本全国の小売パートナーと共にネットスーパー事業の立ち上げ・成長を支援。また、経済産業省『令和4年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業』のコンサルタントや自治体向けスタートアップの事業開発支援にも従事。現在は独立し、シンガポールを拠点に複数企業の事業開発支援や新規事業立ち上げを行なっている。
PURPOSE民間の立場から社会課題解決に取り組む意義
ーー官民共創の領域に挑戦しようと思われたきっかけは何でしたか?
二牟禮:私は新卒から20年近く、東京海上日動に勤務しており、転勤の度に、日本各地のさまざまな地域課題を見てきました。
実際に現地では、新聞で報道されている以上に”危ない”町並みが広がっています。いわゆる「覇気がないまち」です。一方で、政治だけではなかなか進まない。この状況を目の当たりにして、民間がもっと腰を上げ行動しなければと思いました。
保険業は、もともとは社会課題解決が創業の原点です。例えば1980年代は、モータリゼーションの影響で交通事故紛争が全国的に多発しました。これに対し、自動車保険の普及で、街中から交通紛争を減らすという形で社会貢献をしてきました。
一方で現代は社会課題が複雑多様化しており、地域のお困りごとも地域特性があるということも往々にしてあります。このような状況でもう一度原点に立ち返ったときに、私の役割は「課題解決に向けて官民をつなぐこと」ではないかと思いました。
複雑多様化する社会課題は、行政だけでも民間だけでも解決が難しくなってきています。ならば、両者をつないで共に乗り越えられるようにマネジメントするのが役割なのかなと。
大西:私が日本の最重要社会課題である人口減少・高齢化地域の出身だからだと思います。地域は同じように見えても、それぞれ実情が違います。また、人が少ないゆえに、当然、みんなの力を合わせる必要があります。つまり、方法が共創しかありません。
そして過疎地域で最大の予算と実行力をもつ企業は、自治体です。自治体が変わることは、地域が変わるといっても過言ではありません。ですから、官民共創は極々自然な結論であり、その間をつなげる人材こそ、今一番重要なポイントだと考えています。
ーーお二人がおっしゃる通り、あらゆるステークホルダー間のハブとなるのが共創人材の役割だと思います。民間人材ならではの強みについてはどうお考えですか?
二牟禮:課題に対する解決策の導き出し方やプロジェクトマネジメントについては、民間人材の方が、事業性を求められるため、慣れていると思います。それは官民共創の現場で会議などを進行しているときに感じます。
今はまだ両者の間に壁があるかもしれませんが、互いの文化を理解することでその壁が低くなり、それぞれの強みを活かせるのではないでしょうか。
THEME官民共創の伴走支援における「難しさ」とは
※対談インタビューはオンラインで行われた。
ーー官民共創の伴走支援を行う上で感じる難しさについて教えてください。
大西:行政も民間も官民共創の重要性はわかっています。しかし、考え方が真逆です。行政は公平と平等を重視します。一方で民間は、特定のマーケットに絞って課題解決するのが得意です。お互いを知らなければ、役所の煩雑な手続きや対話重視、また民間のスピード感や結果重視の姿勢は、大きな溝のもとになりやすいかと思います。
次に、伴走する側の熱量のバランスを取るのも難しいですね。事業に集中したい事業者からすると、いろいろな情報提供したり課題を見つけてくる伴走者の存在は、時に事業への集中を妨げる存在にも見えます。
また、事業の中には、国の補助金なしには成立しえないビジネスモデルも見受けられ、補助金が“自立自走のための投資”として機能していればいいのですが、“延命措置”であれば意味がありません。我々は投資の伴走者なのか、延命の伴走者なのか。伴走者という立場からの関わりかたにはいつも難しさを感じます。
寺﨑:私も同感です。事業を前進させるのはその主体者なので、伴走者ができることは実は少ないのではないかと思います。そんな中でも伴走者が果たすべき役割というのは、「課題をあぶり出すこと」ではないでしょうか。
例えば、皆がなんとなく気付いているものの見て見ぬふりをしてきたことや、今は困らないが長期的に見たら行き詰まることなどです。事業の前進を阻む課題を先回りして見える化して議論の場に出すのが、伴走者としての価値の出し方なのかなと思っています。そして当事者だと様々な課題が目につき混乱するケースも多いので、少し引いてみて、重要ではない課題を削ぎ落としていくのも伴走者として出来ることだなと。
少し話はそれますが、個人的に思うこととして「事業伴走者は”想い”に逃げてはいけない」ですね。事業主体者が持っている熱い想いに共感することは重要ですが、伴走者はプロ人材として”結果”を出すという観点でシビアなスタンスを取るべきだと思います。「想い」だけでは、人はそこに長くは居続けられないからです。
民間には業界を越えて連携したり、それこそ補助金制度を活用するなど、資源を引っ張ってこれる自由さがあります。その自由さが経済活動として利益が上がり、地域に循環し続ける仕組みを作れる可能性があります。事業伴走者はそういう縁やリソースを持ってくるために、常に色々な業界や人脈から勉強し続けるべきだと思います。
PERSPECTIVE伴走支援に大切なこと
ーー官民共創の伴走支援をする中で、最も心がけていることは何でしょうか?
大西:助言はいくらでもすることができるのですが、果たしてそれが全て相手の役に立つのか?反対に混乱を招くのではないか?と問うことを心がけています。最も効力を発揮するであろう助言に絞ってからお伝えするようにしています。つまり「引き算」のコミュニケーションですね。
それからもう一つは、民間経営者の「話が伝わりやすいツボ」を押さえることです。数字をもとに説明した方がいいのか、感情に訴えかけた方いいのか。そのバランスを日頃の関わり合いの中から探っていきます。先ほどの熱量の話につながってきますが、経営者と我々の熱量が高まれば事業は自然と高回転するようになってきます。
二牟禮:私は「創業の原点に立ち返る」ことをよく提案します。「誰に、どのように喜んでもらうための事業でしたか?」という問いかけです。特にエンドユーザーとの距離が遠い事業の場合、原点や目的が薄れがちになります。レストランで例えるならば、客席のお客様が困っているのに、厨房内の従業員の環境だけを良くしているようなもので、お客様には価値が届かないのと同じです。
エンドユーザーの体験価値について、きちんと議論が煮詰まっているか?目的からそれた余計な仕事をしていないか?このようなことを確認するようにしています。
寺﨑:私は、素直で忖度のないコミュニケーションを大事にしています。特に分からないことはうやむやにせずに、素直に「分からない」というスタンスをとるようにしています。
エンドユーザーのことについて質問を受けることもありますが、私が答えを持っているわけではありません。解像度を高めるための壁打ちはできますが、実際の調査等は事業者自身が行う方が効果的だと思います。
行政とお仕事をする時にも、分からないまま大きな絵を描くのではなく、むしろ何を分かりたいのか、何をすれば分かるのか、という点を明確にしていくことを意識しています。
2004年東京海上火災保険に入社。代理店営業部・経営企画部・営業開発部を歴任。経営企画部時にCSR室を兼務。早稲田大学ビジネススクールにて、内田和成名誉教授に師事し、「社会価値」と「経済価値」を両立させるCSV戦略を研究した。官民共創による防災・教育施策の推進のため2023年に福岡県議会議員に立候補。現在は福岡で、防災・地方創生・人材育成に関わる事業支援に従事している。経済産業省『令和5年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業』のコンサルタントを務めた経験あり。