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民間企業出身者が官民共創の領域で活躍するには?【後編】

2023年12月19日

民間企業出身者が官民共創の領域で活躍するには?【後編】

『民間企業出身者が官民共創の領域で活躍するには?』というテーマで行ったグループインタビュー【後編】をお届けします。 官民共創の伴走支援を民間の立場から行う3名の本音を聞くこのインタビュー。今回は、間に入る人材としての適性や、そこで養われる力について語られました。

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目次

PROFILE対談者プロフィール

二牟禮 弘樹 氏

 

2004年東京海上火災保険に入社。代理店営業部・経営企画部・営業開発部を歴任。経営企画部時にCSR室を兼務。早稲田大学ビジネススクールにて、内田和成名誉教授に師事し、「社会価値」と「経済価値」を両立させるCSV戦略を研究した。官民共創による防災・教育施策の推進のため2023年に福岡県議会議員に立候補。現在は福岡で、防災・地方創生・人材育成に関わる事業支援に従事している。経済産業省『令和5年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業』のコンサルタントを務めた経験あり。

大西 正泰 氏

 

徳島県出身の地域再生コンサルタント。起業家教育に携わり、経済産業省の起業家育成などに参画したのち、2006年に創業。讃岐パスタの商品開発など、新規事業支援を行ってきた。2012年以降、「空き家再生+起業家育成」をセットにした官民連携事業を行う。徳島県上勝町では、空き交番のシェアハウス化、飲食事業者育成のシェアカフェ、ダム湖再生、自転車イベント、ヘルスツーリズムなどの観光事業を展開した。他に、徳島県三好市でのモビリティ事業など、西日本を中心に官民連携プロジェクトに携わってきた。2018年中小企業庁「創業機運醸成賞」受賞。現在、吉備国際大学講師、徳島県ヘルスケアビジネス支援アドバイザー。

寺﨑 夕夏 氏

 

1992年生まれ。国際教養大学卒業。2015年に東京海上日動火災保険に入社し法人営業・海外プロジェクトを経験。その後、東京海上HDにて中長期のデジタル戦略立案や、グループ会社や自治体と連携した新規事業/新サービス開発を担当。2022年4月にスタートアップに移り、日本全国の小売パートナーと共にネットスーパー事業の立ち上げ・成長を支援。また、経済産業省『令和4年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業』のコンサルタントや自治体向けスタートアップの事業開発支援にも従事。現在は独立し、シンガポールを拠点に複数企業の事業開発支援や新規事業立ち上げを行なっている。

 

 

MISSION官民共創の伴走支援者としての役割

ーー前回のインタビューにて、官民共創の伴走支援をする人材には「課題を見つけてチームに問いを投げる力量」が求められることが分かりました。事業の本来の目的を見失っていないか?エンドユーザーは明確か?ビジネスモデルに持続性はあるのか?など、あらゆる角度からの視点が必要ですね。

二牟禮:民間目線の私たちはビジネス視点からの洞察に長けており、逆に官の世界には詳しくありません。世の中には、完全無欠な人はいないと思います。その意味で、官民共創は「官と民がお互いに学び合う場」になれば良いと思っています。

例えば民間では、事業を構築していく際に、ビジネスフレームワークをよく使います。考えてみると、これらは、ビジネスシーンだけで利用するロジックというわけではありません。行政サービスを考えるときにも十分活用できます。

一方で、行政の方たちは予算組みや議会との折衝など、民間人材が分からないところを専門的に推進できる力があります。ですから、お互い足りないところを補い合えばいいと思います。

 

大西:民間人材が長けている点として、「世間に応援してもらいやすいビジネスモデル、ないしはその見せ方」に組み立て直すのも大きな役割だと感じています。

例えば、三重県にある株式会社アイエスイーが官民共創で取り組む獣害被害対策は、見せ方を変えることで印象が変わりました。本プロジェクトではセンサー付きの防獣ネットを使って、鹿や猪が人里に降りてくる場所を特定し、管理コストを削減するためのものです。

しかしコスト削減を前面に打ち出すより、「里山と人が住むエリアとの緩衝地帯を作るための”柵”であり、動物と人間が共に暮らしやすい社会を目指す」とゴールから先に表現した方が応援されやすいでしょう。こういう未来を描くことも、伴走支援者の大きな役割だと思います。

 

寺﨑:伴走支援者には、課題をあぶり出した後に、それをどんなルートで乗り越えるか?どんな見せ方で広めていくか?といったような「解決策の引き出し」の多様さも求められていると思います。引き出しが少ければ少ないほど、伴走ではなく押し付けになるからです。事業の全体像と時間軸を見ながら、先読み・先回りしてお伝えすることを意識しています。

 

 

SKILL伴走支援者の適性とは?

ーー民間出身の方が、今後、官民共創に関わっていくためにはどのようなことが必要でしょうか?


寺﨑:民間出身、特に大企業出身者は社会貢献意識やインフラとして多くの人の利益を考えて動くことへの理解もあるので、誰もが適性があると思います。また、大きな組織で多くの立場の方を巻き込んだ経験も活きると思います。

その上で、良い意味で会社の看板を外れて結果に拘るプロ意識を持ちつつ、民間として自由に動けることを活かして自分の引き出しを増やし、誰のため、何のためにやっているのか?を官民共創の場でもストレートにお伝えするのが良いですよね。

民間にしか出来ないことは沢山ありますし官側もそれを求めていることも多いと思うので、想いを持って好きに動き回れば良いと思います。

 

二牟禮:今の寺﨑さんのお話しで思い出したのが、福岡ダイエーホークス(現:福岡ソフトバンクホークス)の誕生の経緯です。官民共創だからこそできた、究極の好事例だと思っています。少年犯罪が多かった街を、「子供たちに夢を与える街に」を変えていくことを目的に地元の青年会議所や実業家が動き、法的な対応については、九州経済連合や行政、政治も動いて実現したものです。どんな思いが根本にあって行動に出たのか、目的をブラさないことが大切です。

そういう意味では、伴走支援者を「コンサルタント」と呼ぶというよりは、どちらかと言うと、「コーチ」や「メンター」のように、”同じ目線で寄り添う”ニュアンスが含まれる呼び方の方がいいのではないでしょうか?。事業実績だけでなく、事業に関わる人たちの想いや熱量をくみ取って、ものごとを進めていけるバランス感覚が必要ですね。

 

 

CAREER RATH官民共創分野への挑戦とキャリア

ーーこれから官民共創分野にチャレンジする民間出身の方に、一言お願いします。

寺﨑:社会に大きなインパクトを与えたいと思っているのであれば、民間だけではなく、官という大きなリソースを持って未来を作れる方達との協働は必須だと思います。

官と民は組織文化が違うから折り合わないと言われますが、同じ日本語を使っている者同士です。海外に比べて意思疎通もしやすいはずなので、シンプルに一緒に働く機会や学ぶ場にどんどん出ていくのが良いと思います。

そして官民共創の領域は、次世代の若い方たちがトップランナーになれる可能性があります。だから私も面白いと感じ、関わらせていただいています。そういうふうに捉える人が今後は増えてくるといいですね。


二牟禮:官民共創の体験がキャリアアップや自己成長につながるのは間違いないと思います。昨今のビジネススクールでは「企業内熟練を超えた市場価値を高めよ」と言われています。今後ますます雇用の流動性が高まる中で、自分の価値を高めることは、日本と世界のために必要不可欠です。官民共創は自分を試し、成長を通じて、世のため人のためになるための最適な場と確信しています。

私たちが新卒入社した時代は、会社や事業の規模・歴史・福利厚生・処遇などが働く先を決める価値観として大きかったですが、今の若い人たちは「何のために、どんな想いで、どんな想いの人が働いているのか」をよく見ていますよね。

事業として持続的に利益は上げながら、社会課題を解決する熱い志を持って働くことができる環境に、磁力とインパクトがあるように思います。そこに人生を費やしたいと思う方には、官民共創の領域は最も適していると感じます。

 

大西:私は今の「社会課題」とは、資本主義では解ききれなかった、残された宿題だと考えています。世界に残された難問を、官民が一緒になって解き明かしていく。その世界観が面白いと感じる方にぜひ参画してほしいと思っています。

海外では、”官”は不正の象徴でもあります。日本の”官”はそうではありません。実直な日本人ならではの官民共創の姿が作れることに、私は誇りを感じています。

私はここ十数年、いろんな地域のまちづくりを見て、参加してきました。おそらく官民の混じり合う合流ポイントは「教育」です。立場の違う者同士が協働するとはどういうことか?子供達の教育を通じて、一緒に社会をより面白くする。そんな共創の方程式を各地域で作っていく仲間ができると嬉しいなと思います。

 

AFTER終わりに

三者三様の意見が交わされたインタビューからは、官民共創における伴走支援者の特性が見えてきたのではないでしょうか。

官民共創の領域では、民間ならではの事業の設計力や、目的思考、逆算思考、自由な発想やコミュニケーションが社会課題解決の大きな推進力となります。

今後も、民間人材による共創のファシリテーションが求められます。