九州エリアの官民共創の熱量を上げる ~九州経済産業局の先進的な取り組みの内側を聞く~
本記事は2023年度に九州経済産業局が実施した「社会課題を起点とした“公共性”と“経済性”を合わせ持った地域企業の成長を支援するプログラム」の事業成果と、企画運営者の考えと今後の課題観をまとめた記事です。事業の流れは下図の通り。 今後、地域の社会課題解決の担い手になる地域のオーガナイザー(中間支援組織やローカルゼブラ企業)にとって、今回の九州経済産業局の取り組みは先進的な事例にあたると考えています。 単純に地域の社会課題解決に取り組む事業者の事業開発支援をするだけでは、課題にフィットしないビジネスになってくると考えられます。地域の社会課題の現場に近い自治体を巻き込んだ官民共創による事業開発をどのように進めていけばよいのか、その先進的な取り組みから見えてくるものがあるはずです。
Practice概念理解から実践へ
九州経済産業局では、2020年2月に設立した「九州SDGs経営推進フォーラム(※)」を地域・企業の持続的な発展を目指す産学官金のプラットフォームとして、1,000以上の会員に向け、普及啓発・交流促進・SDGs経営支援の3本柱で各種活動を展開中です。
(※)https://www.kyushu.meti.go.jp/seisaku/kyosoryoku/sdgs.html
当フォーラム設立から3年が経過した2023年度は、九州全体でのSDGs推進に向けて更なる機運醸成を図るとともに、地域や社会課題の解決をビジネス機会と捉え直す動きを加速していくべく、自治体の複雑化・多様化する課題の解決と企業の収益性の両立を目指す「官民共創」の取組に着目しました。
編集部の経験上、社会課題解決型ビジネスにチャレンジする企業の多くは「そもそも、民間の立場からは社会課題がぼやけて見えない」「社会課題を明確に捉えているであろう自治体と深い関係が築けない」という悩みに突き当たります。
まずは官民の間にある壁を取り払うことこそが官民共創、すなわち社会課題解決型ビジネスの出発点となりますが、九州経済産業局ではそれをどのようなアプローチで行ったのでしょうか。ここからは、ご担当者3名のインタビューから紐解いていきます。
Workshop自治体職員の心理的安全性を担保
――官民共創を推進するためのセミナーやワークショップを実施するにあたり、工夫した点はありますか?
大筋氏:情報のオープン性、クローズ性を意識しながらセミナーやワークショップを行いました。本来ならば、全ての内容を議事録等でオープンにするのが望ましいのかもしれませんが、特に自治体が持つ社会課題を詳らかに公開すると、発言者の心理的安全性が保たれない可能性があります。
意義のある官民共創を行うには、「解像度の高い社会課題」が欠かせません。そこで、今回の事業を通じて、自治体職員の皆様の心理的安全性を担保するべく、基調講演や成果報告会はオープンに行うものの、深い議論が交わされる自治体・企業向けワークショップはクローズドで実施しました。
――今回の取り組みで集まった自治体には、どのようにアプローチしたのですか?
金森氏:ワークショップに対面で参加いただけるような、福岡から立地的に近く、また、すでに担当者と関係性が築けている自治体を中心に、直接足を運んでアプローチしました。
大筋氏:いわゆる飛び込み営業のように、いきなりドアノックで声をかけて回る方法もあるとは思います。しかし、自治体職員の方からすれば、何のための企画なのか、庁内の誰に話を通さなければならないのか、などの整理が必要でしょう。
あらかじめ関係性が築けている自治体であれば、企画の意図やゴール等、認識を共有するまでのハードルが低くなります。まずはそういった自治体に参加いただき、先行事例として他の自治体にも参考にしていただければ良いと思っています。
Mind取り組みを通じて官民共創のマインドが醸成
――2023年度の取り組みからは、どんな成果が生まれましたか?
西中村氏:ワークショップや報告会後のアンケートでは、「各自治体が課題を共有し、かつ、課題の本質にせまっていく体験がとても新鮮でした」といった感想が多く寄せられました。また、事業を通じた官民共創についての考えの変化として、「更に進めていきたくなった」「現在検討しているが、進めていきたくなった」「これまで検討していなかったが、検討したくなった」という割合が高く出る結果となりました。事業者の皆様にとっても自治体の皆様にとっても、何かしらの転換点になったように思います。
金森氏:今回の取り組みを契機として、ある企業は社会課題解決型ビジネスを軌道に乗せるべく、実証実験に協力できる自治体を募り始めたと聞いています。セミナーを通じた官民共創マインドの醸成やワークショップで出てきた解像度の高い社会課題が、事業の推進につながっているように思います。
※企業向けワークショップの様子
西中村氏:後日、参加した自治体から、自治体同士の横のつながりもでき、課題の解決方法に関する情報交換もしていると聞きました。課題の多くは、自治体で共通しており、自治体の枠を超えて、直接のコミュニケーションを図ることで、新たな気付きやつながりが生まれており、この点は今回の成果の1つであると感じています。社会課題解決型ビジネスの社会実装に至るまでには、さらにいくつもの段階が必要だと思いますが、今回の取組を通じて、まずは官民共創の土台となるマインド醸成に繋がったように思います。
――今後、他の地域でも同様の取り組みが推進されることも考えられます。昨年度までの取り組みの中から得られた課題をお聞かせください。
※企画参加者の集合写真
大筋氏:より多くの自治体の皆様に関心を持っていただくことです。どういった働きかけをすると良いのか模索する必要があります。個人的には、「自治体にも事業者にもメリットがある」と2者間のWinで呼びかけるよりも「地域社会を将来こうしていきたい」というミッションやビジョンを提示して、自治体と事業者が自然と手を取り合えるような働きかけをした方がうまくいくのではないかと思っています。
西中村氏:組織文化の違う、自治体と事業者が協働する現場においては、間に調整役がいると事がスムーズに運びやすくなることを今回の事業を通じて体感しました。地域の課題解決において、自治体と事業者の連携が重要ですが、前提として、両者が同じ目線で課題に向き合うことが不可欠であり、自治体と事業者をつなぐ調整役を担う「中間支援組織・団体」が重要な役割を果たします。今後も、さまざまなプレイヤーを巻き込みながら、皆様の次の一歩に繋がるような事業を仕掛けていければと考えています。
Afterおわりに
社会課題解決型ビジネスの必要性・重要性は年々増すものの、官民の間に横たわる壁は未だ高いのが現状です。九州経済産業局が実施した両者を融和させる取組が、他の地域でも広がっていくことを願います。