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高校生のアイデアを官民共創で実現!―高校生やドライバー視点に立った斬新な交通安全対策の取り組みー【後編】

2023年12月19日

高校生のアイデアを官民共創で実現!―高校生やドライバー視点に立った斬新な交通安全対策の取り組みー【後編】

『高校生のアイデアを官民共創で実現!―高校生やドライバー視点に立った斬新な交通安全対策の取り組みー【後編】』をお届けします。 2023年に枚方市にて実施された本取り組みは、地元の高校生の発案に行政と民間企業が参画し、手応えのあるプロジェクトへと発展しました。 行政・学校・民間企業と立場の違う者同士が共創する過程では、どのようなコミュニケーションが行われていたのでしょうか。 この記事では、成果までのプロセスに注目します。

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目次

PROBLEMきっかけは、高校生からの提言

本プロジェクトの発端は、大阪府立牧野高校の学生による枚方市へのプレゼンテーションです。

かねてから枚方市では「公民連携プラットフォーム」を設けており、地域課題に対する提言を事業者から募っていました。

2022年2月、そこに「信号のない横断歩道の一時停止率を上げる取り組み」という課題テーマに対して、牧野高校の生徒たちの案が飛び込んできます。彼らは学校の探究授業の一環として、身近な地域課題の解決に着目していました。

伏見隆市長と交通対策課の職員は、その提言をぜひ具体的に知りたいと学校に足を運びます。

そこで高校生たちは、JAFが調査した一時停止率や法令などを基にし、原因の考察や解決法の提案を行いました。それは、EBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)に通ずるプレゼンテーションでした。

 

※牧野高校の生徒が制作した資料

 

デジタルネイティブ世代の情報収集力と解釈力に感銘を受けた市長と交通対策課は、この案を案のままで終わらせずに、なんとか実現できないかと模索し始めます。

ちょうど同じ頃、官民共創マッチングプラットフォーム「逆プロポ」では、ある公募が行われていました。

このプラットフォームは、従来の行政が民間企業にアイデアを募るプロポーザルとは逆のスタイルで「民間企業が取り組みたい社会課題テーマを公募し、自治体が共創パートナーとして手揚げする」という仕組みを取っています。ちょうどこの時期、イーデザイン損害保険株式会社が「より安全な交通環境・社会の実現」を社会課題をテーマに共創できる自治体を全国から募っていたのです。


枚方市はこれを好機と捉え、高校生たちの案を実現したいとプラットフォーム(逆プロポ)に投げかけます。イーデザイン損害保険のテーマには複数の自治体から応募がありましたが、産学官連携の可能性を感じる枚方市の案が採択されたのでした。

 

 

PROJECT牧野高校「Making Makino」のメンバー主導によるプロジェクト推進

枚方市の企画がイーデザイン損害保険に採択された後、プロジェクト化された本取り組みは、2022年7月より牧野高校の有志メンバー(”Making Makino”)により主体的に進められました。

行動のモチベーションについて、高校生たちはこう話します。

「”Making Makino”は、先輩たちから引き継いだ活動です。地域の課題や困りごとにボランティアという形で関わることを目的としています。

信号のない横断歩道の一時停止率については、私たち自身が直面する課題でした。登校時に渡ろうと思っても車が止まってくれずに渡れない横断歩道があったからです。なんとかできたらいいなと思っていました。」


高校生たちが「車が止まらない横断歩道」の解決策として編み出したアイデアは、大人たちの議論だけでは決して生まれなかった斬新なものでした。

※インパクト大のイラストやSNS風のレイアウトを用いた啓発ポスター

 

※横断歩道の両脇に連作で設置する横断幕

 

牧野高校「Making Makino」メンバーの皆さん

どうすれば見てもらえるか?をメンバーで何度も話し合いました。

運転中のドライバーの方に訴えるなら、インパクトがあったほうがいい、文字は少ないほうがいい、横断幕は連作にすること(1つ目の横断幕は「横断歩道では止まりましょう!!」、2つ目の横断幕は「横断歩道、止まれましたか?」)で見てもらえる確率が上がる、などのアイデアが上がりました。その結果、このようなデザインになりました。

高校生たちは、啓発の対象となるドライバーの目線に立って解決策を考えていました。

当事者になりきるために、「なぜ、信号のない横断歩道を止まらずに走り抜けてしまうのか?」とドライバーたちにインタビューしたり、早朝の交差点に立ち、状況調査を行うなどのリサーチにも取り組みました。

「テスト期間に重なることもあり、プロジェクトを前に進めるのが大変でした。」と語る高校生たち。けれども、決められた期間の中でどのように行動すべきか?プロセスを自ら考えて実行したマネジメント経験は、これから社会人として羽ばたく彼らにとって大きな価値になったことでしょう。

 

 

FOLLOW UP行政、学校、企業の絶妙なフォローアップ

本プロジェクトの隠れた成功要素として、大人たちのさりげないフォローアップがあります。高校生たちの自由な発想と主体性を引き出すためのファシリテーションが、要所要所で行われていました。

枚方市職員の皆さん

雑談ベースで気楽にアイデアを出し合える雰囲気作りを意識しました。

プロジェクトの発足当初、議論が温まり出すまでは、こちらから少しリードをさせていただきました。大人が加わると、話し合いの場がいわゆる”会議”のように硬い雰囲気になってしまいます。そうではなく、雑談ベースで気楽にアイデアを出し合える雰囲気作りを意識しました。

 

牧野高校の教職員の皆さん(写真右側)

生徒に余計な指導を行わず、彼らの活動を応援することに注力しました。

市の職員の方たちが上手にファシリテーションしてくださったので、私たちは生徒に余計な指導を行わず、彼らの活動を応援することに注力しました。たとえ何か失敗したとしても、それは貴重な経験となります。うまくいったこともいかなかったことも含めて見守るのが我々の役割だと思いました。結果的には、生徒は大人の想像の遥か上を行く成果を出してくれました。社会に出ても課題を解決するスキルや経験が求められます。今回の体験を通じて、生徒たちがそうしたことを体験してくれた、学んでくれたとしたら大変嬉しいです。

 

共創企業

イーデザイン損保

CX推進部:片桐さん

 

損害保険会社として培ってきた情報を高校生たちに伝え、啓発活動に活かしていただきました。

高校生たちが制作するデザインの効果がより高くなるように、交通安全に関する知見提供を行いました。交通事故はどういう条件が重なると起こりやすいのか?どうしたら防げるのか?など、損害保険会社として培ってきた情報を高校生たちに伝え、啓発活動に活かしていただきました。

 

 

OUTCOME市内外に広がる交通安全意識

2023年5月には、プロジェクトの集大成となる成果報告会が開かれました。この場にて、さらに取り組みの可能性が広がる発表がなされます。

高校生たちが考案したポスターのデザインが、京阪バス株式会社の協力のもと、車体のラッピング広告になったのです。この日は、インパクト大の車両が市内を巡回を開始する記念日ともなりました。

 

驚くことに、本取り組みには明確なプロジェクトマネージャーが存在していません。共通の目的に向かって、”Making Makino”や学校関係者、そして枚方市、イーデザイン損害保険のほか、本取り組みに協力していただいた京阪電鉄や京阪バスといった事業者、地域の方々がお互いの強みを活かした役割分担が自然とできていたことになります。まさに共創のあるべき姿を見た事例です。

これにより、多くのドライバーに「信号のない横断歩道の前では一時停止」の啓発を促すことができます。

 

枚方市職員の皆さんのコメント

「市内の人だけが一時停止をしてくれたら良いという話ではありません。枚方市内を通過する自動車は枚方市民が運転する車だけではないからです。隣のまちや、大阪府内、遠方からの車もあると思います。ですので、ストップ率の全国的な向上に繋げられればとの思いで、本プロジェクトの取り組みと成果を様々な場所で紹介しているところです。例えば、各小学校区ごとにある交通対策協議会の支部に紹介したところ、すぐにポスターを地域内に設置したいとの声をいただきました。みなさん、とても興味を持ってくださっています。」

 

牧野高校「Making Makino」メンバーの皆さんのコメント

「自分たちでやろうと思って発信したことが、きちんと聞いてもらえたという実感がありました。大人の方たちが動いてくださって、ここまで大きなプロジェクトになったことに感動しています。それぞれの進路にこれからは進みますが、今回体験できたことは大きな自信となりました。今後も社会のために何か自分でできることに取り組んでいきたいと思います。」

※高校生作のデザインは、駅構内のポスター等によってさらに広がりを見せる

 

成果報告会(【前編】参照)から約半年が経った現在、枚方市交通対策課の皆さんの実感として、枚方市内では手を挙げて横断歩道を渡る人が増えているという成果が見え始めたといいます。

高校生たちの発案から始まった共創プロジェクトは、今後も地域の交通安全に寄与していくことでしょう。