創業80年企業の官民共創への挑戦(後編)|プロジェクトの伴走支援者から見た官民共創プロジェクト成功の要因
この記事では、株式会社オートマイズ・ラボ(以下、「オートマイズ・ラボ社」)が取り組んだ官民共創プロジェクトの成功要因を探ります。前編ではプロジェクトの内容や成果を、中編ではオートマイズ・ラボ社の藤山幸二郎代表取締役にインタビューをし、プロジェクトにかけた熱意をお聞きしました。後編は、本プロジェクトの推進を伴走支援したコンサルタントの視点から、官民共創の成功要因を紐解きます。
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Profile対談者プロフィール
2008年、つくば市役所に入庁。施設管理・社会福祉・スマートシティ・行政経営・産業振興(スタートアップ支援)のセクションで活動。うち、2年間は内閣府に出向し、国家戦略特区制度担当として、規制改革の業務を担う。2019年、行政の枠にとらわれずより広い視点で活動するため、市役所を退職。国と地方行政で得た経験と知識、そして想像力をいかし、ビジネス、テクノロジー、そして社会実装(まちづくり)の視点から物事をとらえ、それぞれの立場に寄り添うことを大事に活動している。
Success Factorsオートマイズ・ラボ社の成功要因とは
ーーオートマイズ・ラボ社が全国各地で行った自社製品の「水門ボット®」を用いた実証実験は、官民共創の理想的な成功事例と言えます。この取り組みを伴走支援した立場から見て、成功要因は何だと思いますか?
内田:オートマイズ・ラボ社の持つテクノロジーと、協業企業のマーケティング、そして何より明確に捉えられた社会課題。この3つがうまく掛け合わさったことだと思います。
「我が社のテクノロジーはすごいだろう」と、技術力の高さを武器に行政など地域社会を巻き込もうとするケースがありますが、それだとコミュニケーションが一方通行になり、なかなか連携がうまくいきません。また、技術力はあっても製品の普及に苦労するケースもよく見かけます。
オートマイズ・ラボ社の場合は、「水門ボット®」のように高い技術力で作られた製品があったことはもちろん、それを普及させるパートナー(双日九州株式会社)がマーケティングを担ったことで、製品の価値が自治体に伝わり、全国各地での実証実験につながりました。
また、「手動水門の開閉時における安全性を確保する」という、誰もがハッとするような「気づきにくい社会課題」を明確に捉えた点が、取り組みの大きな推進力になったと考えています。
今までは、重い水門を地域の高齢者の方が危険と隣り合わせで手動開閉する光景がある意味「当たり前」でした。そんな水門が全国で約150万台もあったのです。それに対し、「テクノロジーを使えばそんな作業はしなくても良い」と打ち出したのですから、大きなインパクトがありました。
※実証実験時に手動水門に取り付けられた「水門ボット®」
Partnershipなぜ、協業者が集まったのか?
二牟禮:オートマイズ・ラボ社の成功要因については内田さんがほぼ回答してくださいましたが、私から付け加えるとするならば、藤山社長が持つ「社会のために」という思いがキラリと光っていたことも成功要因の一つだと思います。その光に感銘を受けて、次々と取り組みの協力者が現れました。
前回のインタビューで藤山社長がおっしゃった「お天道様が見ている」という言葉には、「結果は後から付いてくるから、最初は儲けを考えない」という先義後利の覚悟が込められていましたね。
もちろん、儲けなければ事業として成立はしませんが、「何のために=社会のために」という思いが先にあったことは、前向きな協業者を巻き込み、取り組みが大きく発展した要因だと思います。「社会のために」という視点があると、潜在ニーズの解像度を高めることにもつながりますから、より解像度の高いソリューションを生み出せますしね。
さらに違った角度で言えば、組織体制の作り方にも成功要因があったと思います。オートマイズ・ラボ社は、船舶部品の製作を行う創業80年の鷹取製作所からカーブアウト(独立)したスタートアップです。鷹取製作所という盤石な組織でリスクヘッジをしつつも、そこに甘んじない形態でスピード感ある事業を展開したことも、取り組みが大きく発展した要素ではないでしょうか。
Idea足を使って集めた情報が真価を発揮
ーーオートマイズ・ラボ社の「水門ボット®」は、藤山社長自らが学びのために参加していた「九州デザイン経営ゼミ」の関係者の話から着想を得て開発したそうです。「気づきにくい社会課題」が明確に捉えられたのは、こうした「生の意見」にアンテナを立てていたからだと思います。
二牟禮:社長自らがゼミや大学等に足を運ぶバイタリティには敬服します。このように、ビジネスのヒントを会議室で考えていないこともオートマイズ・ラボ社の強みだと思います。社内の議論や周辺業界の人たちだけで仮説を立てずに、社会との触れ合いや意見交換の中で眠っている課題を発掘し、自社の技術を結びつけていますよね。
日本には、次の一手を探しあぐねている製造やものづくりの中小企業が多くあります。このときに必要なのは、藤山社長のように外へ出て情報を仕入れたり、人と知恵をぶつけ合う姿勢ではないかと思います。オートマイズ・ラボ社は、自社だけでイノベーションを起こそうとはしていません。あらゆる人との接点を増やして、そこから可能性を広げていった結果、オープンイノベーションにつながったと言った方が適切だと思います。
Co-Creation協業者の存在と強みの持ち寄り
ーー官民共創の伴走支援者の立場から見て、第2第3のオートマイズ・ラボ社のような事例を出すためには何が必要だと思いますか?
内田:よく「大学等の研究者が起業しようとするとうまくいかないことがある」という話を耳にします。私はここにヒントがあると思っていて、やはり「技術開発に長けた人」と「広めるのに長けた人」の役割分担はした方が良いと感じます。
オートマイズ・ラボ社の場合は、マーケティングの側面で双日九州という強力なパートナーがいます。技術を主軸とする企業にとって、広げる力を持つ企業と連携することは事業展開の大きな助けになるはずです。
二牟禮:自社の力だけでなく、協業者やコンサルタント、メンターといったような外部の視点をいくつかの角度から取り入れて、事業に対する解像度を短期間で高めていくことも重要です。いわゆる「ラボ」のような柔軟性のある運用ができると、協業先とも関係性を築きやすいですし、事業自体も最速で回せると思います。
Social Impact「I」の視点から「We」の視点へ
ーー藤山社長の在り方を見ていると、自社とステークホルダーとの間に境界線を引いていないように感じます。こういった全体包括的な視点も官民共創においては重要なのだと思います。
欧米のプレイヤーには「社会をこう変えたい」という思いをビジネスに込めて人が多く、彼らの傾向を観察していると、主語が「We(私たち)」なんですよね。対して日本企業は主語を「I」として使っていることが多く見受けられますんです。「I」とは自社のことなので、必然的に「自社」と「(自社に適した)お客様」というテリトリーができます。
その点、おそらく藤山社長は「社会全体がお客様だ」という視点をお持ちなのではないかと思います。その視点があったからこそ、元々持っていたバルブの自動開閉技術を水門の社会課題解決に転用することができたのではないでしょうか。これは「自社のできること」という「I」の視点からは生まれません。社会全体がお客様であり、自分たちもその社会の一部であるという「We(私たち)」から生まれる発想です。
「I」視点から「We」視点への切り替えは、多くの日本企業にとって、今後のチャンスを掴むための転換点になると思います。
ーー確かに、「We」の視点は大切ですね。社会の中のそれぞれの役割を持つ企業や団体、個人が、一体となって事業を行っていく上で基本的な視点となりそうです。
「We」の視点を持っていると、「目の前で困っているその人」に寄り添うことができます。ですから、潜在的な課題を顕在化しやすいと思います。
例えば今回の例で言えば、「線状降水帯の下で大雨に打たれながら、増水する河川のすぐそばで重い水門を手動で開閉する高齢者」や「複数の水門を軽トラックで数百キロも巡回移動しながら水門の状況確認に奔走する自治体職員」を、オートマイズ・ラボ社は助けたかったのです。
こういう、困っている人の表情まで想像できるほど課題の解像度を高めるには、「We(私たち)」の視点が必要です。「顔の見える社会課題」まで整理ができると、共に解決しよう、と皆が協力しやすくなります。
二牟禮:最終的に、社会の中の誰の課題がどのように解決されるか?これが明らかになれば、結果的に社会全体がどう変わるかもイメージが付きます。エンドユーザーの姿が明確であればあるほど、それに取り組む事業者や関係者の熱量も高まり、事業の推進力にもつながると思います。
ーーお二方とも、オートマイズ・ラボ社の成功要因を詳しく紐解いていただき、ありがとうございました。
2004年東京海上火災保険株式会社に入社。早稲田大学ビジネススクールにて、内田和成名誉教授に師事し、「社会価値」と「経済価値」を両立させるCSV戦略を研究した。現在は福岡県で、防災・地方創生・人材育成に関わる事業支援に従事。経済産業省『令和5年度地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業』コンサルタントとして、オートマイズ・ラボ社の伴走支援を担当。